思ったことを語る

映画『リズと青い鳥』を見て思ったことを語る

*5/28 全体的にまとめ直し、長くなりすぎたので一部の段落をカットした。

もう10回以上映画館に通ってしまった映画『リズと青い鳥』について、考察なんてものじゃないけど、気になったことや感想をしたためることにした。私が受け取った解釈の確認のため所々ポエム化しています。

「みぞれ」と「髪を触る仕草」

みぞれが髪に触れる仕草は彼女の本音を示しているように思えた。右に触れるときは肯定的、左に触れるときは否定的な感情ではないだろうか。ただしニュアンスが微妙でシンプルには受け取れない。

例えば、希美が青い羽根を拾って「綺麗」と言ったときは左に触れている。希美以外に興味がない、もしくは希美が自分以外に興味を持って欲しくないことからの否定だろうか。渡り廊下で「フグにごはんあげてた」と言うときも左。新山先生と話していたことや進路の話は内緒にしたい気持ちの表れだろうか。動作にもとっさにごまかした感が出ていた。

麗奈に「相性悪くないですか」と言われたときは「違う」と返しつつも右に触れている。肯定的だからと行ってポジティブとは限らず、みぞれは自分を卑下してネガティブ肯定してしまう一面*もある。

*原作『北宇治高校吹奏楽部のいちばん熱い夏』では「気持ち悪い。こんなふうに友達に執着するなんて」と自分を卑下していた。

髪を触る行為は明確な回答というよりむしろ「この時のみぞれの気持ちを述べよ」という問いかけに見えてきた。

「黄色い花」と「花言葉」

劇中で黄色い花が4回登場したのを覚えているだろうか。山田尚子作品において「花」は強いメッセージ性を持って描かれるので触れないわけにはいかない。

1つ目は、冒頭の登校シーン。希美が校門をくぐって世界が彩られるような演出の時に映される「スイセン」。黄色いスイセンの花言葉は「私の元へ帰ってきて」。みぞれ、尊い。

2つ目は、希美がみぞれを吹部に誘って手を引くみぞれ視点の回想シーン。一輪の青い花が黄色い花に置き換わり、それが二輪に変化していく。この二輪の花は特報映像でもフィーチャーされているので重要性は高く感じる。

絵が抽象的なので自信はないがあの花は「ガーベラ」だろうか。ガーベラはのぞみぞれとの関連性がとても高い花だ。アニメ版ユーフォ2期でも、エンディング映像でみぞれが白いガーベラにキスしている絵があった。白いガーベラの花言葉は「希望」。他にも京アニショップから出ているグッズにガーベラが描かれてたりしている。

響け!ユーフォニアム 仲良しクリアファイルセットA【在庫品】
http://kyoanishop.com/shopdetail/000000001400/works_HE/page2/recommend/

黄色いガーベラの花言葉は「究極の美」「究極の愛」。もしあの花がガーベラだとしたら、山田監督は、2人の少女がああいう出逢いをして一生添い遂げることを理想として見ているんじゃないかと、勝手に考えている。

3つ目の花は、梨々花の「雨ですねぇ」の後に、シーンとシーンの間に挟まれるように映る「ひまわり」。ひまわりの花言葉は「私はあなただけを見つめる」。ここでは花言葉は関係なくて、梅雨が終わって夏になったというだけの演出かも。ちなみに、その後の梨々花の「オーディション落ちちゃいました」は7月になったことを指す台詞だ*。プールに行く時の「今度の連休」はお盆休みを指しているし、学校内の時間は止まっているように見えて季節を感じるワードが散りばめられている。

*吹奏楽コンクール京都大会は8月上旬。北宇治高校はコンクールメンバーのオーディションをその1ヶ月ほど前に行っている。

4つ目は、希美と優子と夏紀が踏み込んだ会話をするシーン。棚の側面にくくりつけられている「カーネーション」。黄色いカーネーションの花言葉は「軽蔑」「嫉妬」。この花が存在する位置にも意味があって、消極的な女性を指す「壁の花」の表現でもあるのだろう。希美、そういうとこだぞ。

ところで、3人が話していたあの部屋がなんなのか気になった。音楽室付近の教室かと思ったがそれだと久美子の練習場所は見えない。どうやら校舎の北西にある倉庫のような小部屋を吹奏楽部が利用しているようだ。公式設定集にある校舎見取り図でいうと4階の右上、「流し」と書かれているところの上にある小部屋だろう。みぞれは自分の教室から廊下に出てそのまま窓を開ければ真下に久美子が見える。

「リズ」と「青い鳥」

みぞれがリズ、希美が青い鳥であるところから物語は始まる。二人の過去に当てはめて「私たちみたい」って希美がそれを言うのは美化しすぎだと思う。勝手にいなくなった希美と青い鳥は違う。希美、そういうとこだぞ。

とはいえ、音楽において鳥の表現はフルートの役目。第三楽章「愛ゆえの決断」も主役のオーボエが、少女の正体を知ってしまったリズの葛藤を描く役割であることは、原作では明確になっている。オーボエパートを吹いた麗奈を「強気なリズ」と評していたし、映画もその視点で見はじめて良いはず。

でも「希美の青い鳥らしさ、みぞれのリズらしさ」は説得力が感じられない。先ほど触れた「私たちみたい」とか、フグにごはんあげるのを「リズみたい」とか。希美の決めたことに従うみぞれのように、視聴者にも先入観を与えているようだ。でもみぞれのリズらしさである、青い羽根を両手で握りしめてキスするところは大好き。みぞれ、尊い。

物語への理解を深めるにつれて浮き彫りになるのは、みぞれに対する希美の執着心。みぞれが自分以外に興味や接点を持つことに異常な反応を示している。他の鳥たちがじゃれてるのを青い鳥が見つめてる様子を見て、胸が締め付けられているリズのように。

対してみぞれは、2人のリズの登場によって青い鳥になっていく。1人目は高坂麗奈。みぞれが羽ばたく姿を見たい彼女は、強気なリズを演じてみぞれにアタックする。失敗したけど。2人目は新山聡美。彼女はみぞれの大切にしすぎてしまう面に共感していて*、アプローチが上手い。みぞれが気付いた青い鳥の愛の形は、最初から希美に向けていた感情だ。

*原作『北宇治高校吹奏楽部、波乱の第二楽章 後編』より。原作『北宇治高校吹奏楽部のホントの話』では新山聡美の大学生時代に触れられている。

その後の合奏練習でみぞれは飛び立つ。これを受けた希美はプライドがへし折られる。希美視点で画面や音がぼやける演出が心に刺さる。でもみぞれは別れを告げたわけじゃない。飛び立ってもまた希美の元に帰ってくる。みぞれはずるい。希美が軽率に放った「また戻ってくればいい」が残酷な意味合いになってしまったように感じた。

「stereo,bright,curve」と「Kadenz,」

この2つの曲には特徴的な効果音が入っている。「スライド映写機を切り替えた音」だと思っていたが、その後のインタビュー記事で「オープンリールのテープレコーダーが動き出す音」だと判明した。

最後の「ピン」という音で希美の幸せを願った―牛尾憲輔が語る「リズと青い鳥」と音楽
https://eonet.jp/zing/articles/_4102098.html

テープレコーダーには2つの円がある。作中でも使われているベン図のモチーフと関連性を感じる。テープレコーダーが動き出すと2つの円は同じ方向に回る。

このあとリズと希美が口にする「神様、どうして私に籠の開け方を教えたのですか」という台詞。なぜ籠を開けたのか、それは「見て見ぬふりができなかったから」だと思う。リズがなぜ青い鳥に別れを告げたのか。相手のためを思う自己犠牲の愛なのか、苦悩し続けることに耐えられなくなったのか、正解は書かれていない。でも希美のこの台詞には、みぞれへの執着心から見て見ぬふりができなかったことへの後悔が込められていると思う。

『Kadenz,』では、大好きのハグのあと、希美が廊下に出てからの回想後に音が入る。こちらの効果音は前者とは若干違って動作が終了したかのようだ。

大好きのハグで希美は、みぞれに「希美のフルートが好き」と言わせるための振りとして「みぞれのオーボエが好き」と言ったんだと思う。実力差でトドメを刺された今でも、自分の音楽を認めて欲しいという気持ちがあったかもしれないが、今のみぞれを最終確認するためだったのではないだろうか。その結果、自分を追従するだけのみぞれはもういなかった。それゆえの「ありがとう(もうわかったからいいよ)」なのだろう。

『Kadenz,』という曲名通り、テープレコーダーが止まった音と共に希美の伴奏は止まり、みぞれのカデンツァがここから始まるのだろう。でも部屋を出た後の希美のスッキリした顔は、良い方向に吹っ切れているように思える。

傘木希美は汚い感情をたくさん晒け出してきたけど、ただ感情的になりすぎるだけなのだ。だから彼女が発する純粋な表情も、我々は邪推することなく受け止めなければならない。希美、正直すまなかった。

「青」と「赤」

水彩絵の具の「青」と「赤」が交わっていく演出。あれが共通部分を持ったベン図であることは各インタビューでも語られているが、みぞれと希美、どちらが青で赤なのか気になった。希美とみぞれの瞳の色*かとも考えたが、パンフレットの表紙を見たら深く考えすぎだったようだ。表紙では、みぞれの背景には青い色、希美の背景には赤い色が使われている。

*瞳といえばハイライトに小さく違う色が入ってる云々は、リズ特有の表現でもない元々ユーフォからある描き方なので考えないことにした。

最後のシーンで希美は「ソロを完璧に支えるから待ってて」と言った。『Kadenz,』でみぞれの伴奏を諦めた希美は、完全に吹っ切れるまでまだ時間がかかるだろうし、まだ執着心があるかもしれない。でもまたみぞれに並べるようになりたいという意思は嬉しいものに思える。

みぞれは「私もオーボエ続ける」と言う。希美がいなくても彼女がくれた音楽は続けていく。それと同時に、希美が戻ってくるのをいつまでも待っているという意思表示なのだろう。

この映画は希美とみぞれの物語に結末を迎えるものではない。でもこの映画のエンディングは、少なくともみぞれにとって幸せなものだと思う。なぜなら彼女がこう叫んだから。

Happy, I scream.

「ユーフォ」と「リズ」

『リズと青い鳥』は小説『響け!ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部、波乱の第二楽章(前編・後編)』から、希美とみぞれの話を切り取った映画だ。今ならカバーが二重になっていてアニメの絵が表紙になってるので見つけやすい。

当たり前だけど原作は久美子が主人公で作品本来のノリで話が進むので、ユーフォ本編っぽいリズと青い鳥を楽しめる。あのシーンこのシーンでのぞみぞれのお相手を務めるのは黄前久美子だ。さすが主人公補正。なので映画リズと原作ユーフォは、いわゆる世界線が異なる作りだ。

でも私は、映画リズと原作ユーフォは共通部分を持ったベン図で表せると思っていて、逆にアニメ版ユーフォと映画リズは遠い位置にあるように感じている。アニメ版ユーフォを経由した作品というよりは、原作から直接生まれたように感じている。リズの作画、特にみぞれの横顔なんかが原作のアサダニッキ氏の絵にかなり近いのもそう感じる要因の1つかも。

リズを見る前にアニメ版ユーフォを見て!とはならないけど、リズを見た後に興味があったら原作も読んで!とは思う。実際に映画で物足りなかった部分を補完できたし、希美の心の闇を雑巾の汚れで表現するくだりは秀逸なのでぜひ読んでほしい。

最後に

『リズと青い鳥』は希美⇄みぞれに比重を置いた作品だけれど、優子のことも忘れることなく、みぞれ⇄優子の関係性もきちんとフォローされていたのが良かった。

この作品は『聲の形』のように、軽率に見ると心にどでかい穴が空くけれど、それでも気に入っているので、山田監督はこれからもこの路線でこじらせていただきたい。あのアンビエント感を楽しむためにまだまだ映画館に通うことになりそう。なんといっても傘木希美のクソデカ感情と毎回向き合うのが楽しいのだ。

映画『リズと青い鳥』を見て思ったことを語る